تسجيل الدخول騎士団登用試験まで、あと数日となったある日。ここ数日、エステルとクレイは王都を散策して土地勘を養っていた。
そして、本日は…… 「……本当に大丈夫か?」 「大丈夫だって!!私は一度通った道は忘れないよ!」 「……お前、一度行った場所なんか興味無いだろ」 「シモンの民たる者、常に開拓者の精神を持たないと!」 「言ってる事が矛盾してるのに気付いてくれ……」 二人が何を話しているかといえば……クレイが今日は図書館に行ってみたい、と最初提案したのだが、全く興味がわかないエステルが「だったらそれぞれ単独行動にしよう!」……言い出したのだ。 何かと小姑のようにうるさいクレイの目から離れて伸び伸びしたい……と思ったわけではない。……はず。 「迷子になったら適当に彷徨くんじゃなくて、巡回の兵士とかに聞くんだぞ。宿の名前は分かってるな?」 まるで小さな子供に言い聞かせる母親のように何度も確認するクレイ。 「も〜う、分かってるって!!うるさいなぁ〜」 ……やはり、彼女も少しうるさいと思っていたようだった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 「ん〜……のびのび〜!ふ〜ふふんふん〜ふ〜……」 クレイと別れたエステルは、賑わいを見せる街路をひとり歩いて行く。調子外れな鼻歌すら飛び出すほど開放感を感じているようだ。……散々クレイにおんぶに抱っこだった癖に、随分現金なものである。 「さぁ〜て、どこに行こうかな〜。まだ行ってないのは……あっちの方かな?」 早速、開拓者精神とやらを発揮することにしたらしい。 複雑に入り組んだ街の街路を迷いなく進んでいくエステル。完全に直感で道を選んでいるが、エステル・シックスセンスがポンコツであることを彼女は自覚していない。 果たしてどうなる事か…… 「あれ〜?随分人が少なくなったね……」 暫く街を適当に歩いてたエステルだったが、あれほど賑やかだった喧騒がいつのまにか遠ざかっていた。周囲の建物も一つ一つが大きく、閑静な住宅街といった雰囲気だ。 「何か、デニス様のお屋敷みたいなのがたくさんある……あんまり面白そうな場所じゃないかな?……ん?」 キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていたエステルだったが……ふと、彼女は立ち止まってある一点を見つめた。どうやら何か彼女の興味を惹くものがあったようだ。 「あれってもしかして……お城かな?」 エルネ城は宿泊している宿からも遠目に見えていたが、随分近くまでやって来たらしく、その威容がはっきりと確認できた。 「あそこに王様がすんでるのか〜……よし、近くで見てみよう!!」 自分が住む国の王様など、彼女はいまいちピンと来ていない。ただ、彼女が騎士に興味を持つきっかけとなったのは、デニスから『若き王はかなりの実力者』だと聞いたからだ。父やデニスは呆れていたものだが、いつか手合わせしてみたい……と、彼女は本気で思っていた。 俄然興味が湧いてきた彼女は、逸る気持ちのままに足早になって王城を目指すのだった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ そしてやって来たのは王城前の大広場。先程までの閑散とした雰囲気から一転、観光客らしき多くの人々により再び賑わいが見られるようになった。 「おぉ〜……さすが王様が住んでるところだね〜。凄く大きい!!この前見た神殿よりも大きいな〜」 間近に王城を見たエステルは目を輝かせる。 大広場から王城に続く城門には門番の兵が立っているが、門は大きく開け放たれていて自由に出入り出来るようだ。その先、前庭を挟んで優美かつ壮大な城が建っていた。ここまで間近に来ると、その全容を全て視界に収めきれないくらいに大きな城だ。 「へぇ……中に入れるんだ〜。折角だから見学してこうっと」 エルネ城は王の居城というだけでなく、国政の中心であり、行政手続きの場でもある。そのため、一般に開放されている区画までは自由に出入りすることができ、多くの観光客も訪れているのだった。 「こんにちは〜!!お疲れ様です!!」 元気な挨拶をしながら城門をくぐるエステル。門番の兵士たちは、美少女に声をかけられ満更でもない様子でにこやかに手を振って応える。 人の流れに乗って進むと、まず道の両側に綺麗に整えられた庭園が出迎えてくれる。そこも自由に入ることが出来るようで、そこかしこに休憩用のベンチや|四阿《ガゼボ》が設けられて憩いの場となっていた。 さらに進むと、いよいよ彼女は城の中に入っていく。 高いアーチ状の天井をもつ広い廊下が真っ直ぐ続き、暫く進んでいくと広大な玄関ホールに辿り着いた。 ここは市民の行政上の各種手続きを行う場所となっていて、観光客に混じって一般市民らしき人たちもちらほらと確認できる。 「ふぅん……お城の中ってこんななんだ〜……」 感心した様子でキョロキョロと辺りを見回しながら、さらに奥に進もうとする。 その時…… 「……ん?君は……エステルじゃないか?」 突然、エステルに声をかけてくる者がいた。 彼女が声がした方を振り向くと、そこにいたのは…… 「あ……アランさんじゃないですか!!こんにちは〜!!」 「あぁ、こんにちは。……どうしたんだ、こんなところで?一人か?」 「はい!!今日はクレイとは別行動です!!」 思いがけず知り合いと出会ったエステルは、嬉しそうに答える。 「そうなのか。……ふむ、だったら俺がこの城の中を案内しようか?」 少し考えてから、アランはそんな提案をする。……彼の目が一瞬、怪しげな色を見せた事に、エステルは気が付かなかった。 「え、いいんですか?ぜひお願いします!!」 アランの提案に、エステルは悩むこともなく即座に返事をする。彼女の中に遠慮という言葉はない。 「よし、それじゃあ案内しよう」 こうして、エステルはアランの案内のもと、王城見学を行うことになるのだった。無人の後宮を散策するエステルたち。しっかりと手入れされ、美しい花々が咲き誇る庭園を彼女は心から楽しんでる。もしこの場にクレイがいたのならば「お前に花を愛でる感性があったなんて……」などど、失礼な事を言うに違いない。「広くて良いですね〜。キレイな花を見ながら鍛錬するのも楽しそう!」……やはりエステルはエステルだった。きっとクレイも納得するはず。「ふ……本当に剣術が好きなんだな、エステルは」「はい!……でも、王都に来てから中々鍛錬が出来なくて。鈍ってないないか心配です」シモン村では毎日剣術の鍛練を欠かさなかったエステル。だが、ここ数日はそれを果たすことができずに焦りの気持ちが生じてるのだ。「一度、宿の前でやろうとしたんですけど、クレイに止められたんです」「あ〜……確かに奇異の目は向けられそうではあるな」因みに彼女は今、帯剣している。本来の得意武器である大剣ではなく、小振なショートソードではあるが。本来は、騎士や衛兵でも無い限り王城内での武装は特別な許可が必要なのだが、アランと一緒にいるため見咎めるものは居なかったのである。「騎士になれば騎士団の訓練場で好きなだけ剣をふれるから、それまでは我慢することだ」「う〜」我慢しろと言われ、ぷく〜……と頬を膨らませるエステル。その様子が可笑しくて、アランは笑いを抑えることができない。「ははは!そんなにむくれるな。もう、あと数日だろう?」「むう……まぁ、しょうがないか。でも騎士になったら取り戻さないと!!」もはや鍛練中毒とすら言えそうな彼女であった。そうやって……実態はともかく、傍から見ればまるで恋人同士のように仲睦まじく語らいながら二人は庭園を散策する。そして、次は宮殿の中も見学しようか……と、更に進もうとした時だった。「……アランさん。誰かいます」突然、普段の脳天気とも言えるくらいに快活なエステルの雰囲気が一変する。アランは、その変わりように驚きをあらわにするが……直ぐに自身も不穏な空気を察知した。「これは……殺気?」「はい、誰かが私達を狙ってます。…………っ!!」何かが自分たちに向かって飛来するのを敏感に察知したエステルが、腰に下げていた剣を抜き放つ!!キィンッ!!キキィンッッ!!目にも止まらぬ速度で振るわれた彼女の剣は、猛スピードで飛来した何本もの矢を尽く打ち払った!!ヒュ
アランに案内されて王城見学をするエステル。中央庭園を後にした二人は、更に城の奥に進むが……「さて、ここからは一般人は入ることが出来ない場所だな」「え?入っていいんですか?」「ああ、大丈夫だ」アランは特に気にした風もなく、庭園から奥へと続く廊下を目指して歩いて行く。当然ながら行く先には見張りの衛兵が、一般人がこれ以上入ってこないように監視の目を光らせていた。しかし、アランは歩みを止めず堂々としたものだ。二人が近付くと、衛兵は静止させるべく動こうとしたが……アランの顔を確認すると再び定位置に戻って不動の体勢になった。「ご苦労」「「はっ!!」」アランが軽く手を上げて労いの言葉をかけると衛兵たちは、さっ……と敬礼する。「こんにちは〜!!」エステルが元気な挨拶をすると、少し驚いた表情になったが、無言を貫いてそのままの姿勢で二人が奥へと進むのを見届けるのだった。「えっと……アランさんって、もしかして偉い人なんですか?」「ん…………まぁ、気にするな」問われて彼は少し口籠って答えを濁す。素直なエステルは、「気にするな」と言われて、その言葉通りに気にしないことにした。エステル・ブレーンの思考回路は至ってシンプルなのである。さて、先程までは多くの一般人、観光客が周りにいたが、いま歩いている城内の廊下は閑散としたものだ。ときおり城の使用人らしき人とすれ違うが、誰も彼もアランを見ると邪魔ならないように脇に避けて、頭を下げて二人が通り過ぎるまでその場で待機するのだった。そんな光景を見てもエステルはもう気にしないで、キョロキョロと物珍しそうに城内の調度品などを眺めながら歩く。……素直すぎる娘である。そうやって暫く廊下を歩いていると、やがて二人は城の裏手から外に出て、先程の庭園と比べて倍ほどに広い美しい庭園にやって来た。「うわぁ……さっきよりも凄く広い!!お城の中にこんなに広い場所があるんですね!ここは何なのですか?」「ここは後宮だ。今は使われていないから、誰もいないが……手入れはされているから中々見応えがあるだろう?」アランが案内してきたのは、王城の最も奥まった場所にある後宮であった。先程の中央庭園とは異なる色鮮やかな花々が咲き誇り、中央部分には清らかな水を称える大きな池が。その周囲には後宮に住まう女性たちが語らうであろう|四阿《ガゼボ》が設けられ
「そう言えば、アランさんはお城に詳しいんですか?」今更な質問である。そうでなければ案内するなどと言わないだろう。だが、アランはそんなエステルのちょっと抜けた質問に、呆れることもなく答える。「まぁ、それなりにな。一般人よりは知ってると思うぞ」「へぇ~……じゃあ、王様に会ったこともあるんですか?」その何気ないエステルの質問に、アランはピクッ……となって、一瞬だけ反応が遅れる。「……いや、国王陛下には会ったことは無いな」「そっか~……王様って、強いんでしょう?私、お会いしたいんですよね~。出来れば手合わせなんかも!」「ははは!!国王陛下と手合わせか!!そいつはいいな……!!」彼女の無邪気な発言に、アランは可笑しそうに笑うが、それは馬鹿にしたような雰囲気ではなく、どこか嬉しそうなものだった。エステルもその雰囲気を察して、何だか自分も嬉しくなる。「えへへ~……でも、流石に難しいですよね」流石のエステルも、一国の王と手合わせすることが難しいのは理解しているようだ。……意外なことに。「さあ、どうだろうな……案外、願いが叶うかもしれないぞ?」「ホントですか!?」「はは、約束は出来ないがな。まぁ、勘というやつだ。……ああ、ほら見てみろ。中央庭園だ。ここまでは一般人も入ることが出来るな」まずアランが案内したのは、王城入り口から真っ直ぐ進んで突き当りにある、城内中央部の屋内庭園だった。彼が今説明した通り、ここまでは一般人も自由に立ち入ることができた。もともとは玄関ホールから先は立入禁止だったのだが、現国王になってから市民に開放されたのである。「うわぁ……キレイな花がたくさん!!」女子力皆無のエステルではあるが、キレイな花は好きである。 「それに美味しそう!!」……いや、やはり花より団子のようであった。「美味しそう……?」庭園の花々を見て「美味しそう」などと評したエステルに彼は訝しげな顔となる。「ほら、あれってプリュケスの実じゃないですか!!甘酸っぱくて美味しんですよ~!私、大好きなんです!」彼女が指差す先を見ると、なるほど……確かに幾つもの赤い実がなっている木があった。「ふむ……この実は食べられるのか?」二人はその木に近づいて、丁度剪定作業を行っていた庭師にアランが訪ねた。話しかけられた年配の庭師は振り向いてアランの顔を見ると……「
騎士団登用試験まで、あと数日となったある日。ここ数日、エステルとクレイは王都を散策して土地勘を養っていた。そして、本日は……「……本当に大丈夫か?」「大丈夫だって!!私は一度通った道は忘れないよ!」「……お前、一度行った場所なんか興味無いだろ」「シモンの民たる者、常に開拓者の精神を持たないと!」「言ってる事が矛盾してるのに気付いてくれ……」二人が何を話しているかといえば……クレイが今日は図書館に行ってみたい、と最初提案したのだが、全く興味がわかないエステルが「だったらそれぞれ単独行動にしよう!」……言い出したのだ。何かと小姑のようにうるさいクレイの目から離れて伸び伸びしたい……と思ったわけではない。……はず。「迷子になったら適当に彷徨くんじゃなくて、巡回の兵士とかに聞くんだぞ。宿の名前は分かってるな?」まるで小さな子供に言い聞かせる母親のように何度も確認するクレイ。「も〜う、分かってるって!!うるさいなぁ〜」……やはり、彼女も少しうるさいと思っていたようだった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「ん〜……のびのび〜!ふ〜ふふんふん〜ふ〜……」クレイと別れたエステルは、賑わいを見せる街路をひとり歩いて行く。調子外れな鼻歌すら飛び出すほど開放感を感じているようだ。……散々クレイにおんぶに抱っこだった癖に、随分現金なものである。「さぁ〜て、どこに行こうかな〜。まだ行ってないのは……あっちの方かな?」早速、開拓者精神とやらを発揮することにしたらしい。複雑に入り組んだ街の街路を迷いなく進んでいくエステル。完全に直感で道を選んでいるが、エステル・シックスセンスがポンコツであることを彼女は自覚していない。果たしてどうなる事か……「あれ〜?随分人が少なくなったね……」暫く街を適当に歩いてたエステルだったが、あれほど賑やかだった喧騒がいつのまにか遠ざかっていた。周囲の建物も一つ一つが大きく、閑静な住宅街といった雰囲気だ。「何か、デニス様のお屋敷みたいなのがたくさんある……あんまり面白そうな場所じゃないかな?……ん?」キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていたエステルだったが……ふと、彼女は立ち止まってある一点を見つめた。どうやら何か彼女の興味を惹くものがあったようだ。「あれってもしかして……お城かな?」エルネ城は宿泊している宿
「陛下、何をご覧になられてるのです?」 王の執務室を訪れた宰相フレイは、王が何らかの書類をじっくり読んでいるのを見て問いかけた。 彼の主である若き王は、その資質、能力は申し分ないものの……些か不真面目なところがあり、普段の書類仕事は片手間でやることが多い。それでも能力があるので仕事はきっちりとこなすのだが。 だから、王がこのように集中しているというのはフレイから見れば珍しい光景だった。 「ん?……あぁ、ほら、昨日会った騎士志願の若者たちの話はしただろう?登用試験の出願書の写しを持ってこさせたんだ」 「あぁ、なるほど……それで、どのような者たちなのです?」 「二人とも、ニーデル辺境伯の推薦だな。あの地は強力な魔物が多いから……優れた戦士を多数輩出する土地柄だ。あの実力も、そう思えば納得できる」 「ニーデル辺境伯……デニス様ですか。あの御方の推薦ならば信頼できますね」 「ああ。だが、それだけじゃない」 「……?」 「少年の方は、至って普通の素性なんだがな……これを見てみろ」 そう言って王は、先程までじっくり見ていた資料をフレイに差し出す。彼は資料を受け取ると目を通し始めた。 「……名前はエステル。15歳、女性。出身はニーデル辺境伯領シモン村。シモン村自警団所属で、団の中では一番の実力者……ほぅ、少女の身で大したものだ。ですが陛下、他に特に変わったところは無さそうですが……」 「家族構成を見てみろ」 「家族構成?……父と母、妹と弟の五人家族。父の名はジスタル。母の名はエドナ…………えっ!?」 エステルの両親の名を確認したフレイは、目を見開いて驚愕の声を上げた。 「どうだ?面白かろう?」 「いや、面白かろう……じゃないですよ。よろしいのですか?」 「何が?」 「ジスタルとエドナと言えば、あの事件の……」 と、フレイは口籠る。どうやら彼はエステルの両親の事を知っているらしい。 彼らが王都にいたのはまだエステルが生まれる前……15年以上も前の事。国の重鎮……それも、まだ年若くもある王やフレイがエステルの両親を知っていると言うのは、いかなる理由によるものなのか。 「問題ないだろ。あの事件はとうに解決し、もはや過去のものだ。ましてや彼らの娘には関係ないことだろう」 「それはそうでしょうが…………陛下?何か企んでますよね?」 昨日の様
職人街をあとにしたエステルたち。特に目的地を定めずに散策する二人が次にやって来たのは……「わぁ〜……大きな建物だねぇ……」「女神エル・ノイア様の神殿だな。ここは有名だから俺でも知ってるぞ」エル・ノイア神は、この国の初代国王に祝福を与えたとされ、国の名前の由来ともなった女神だ。王都にある神殿を総本山として、王国各地に神殿が作られている。いま二人の目の前にある神殿は、建物が密集する王都の中にあって、非常に広大な敷地を有する。敷地の外周部は木々が植えられていて、公園のような憩いの場所となっていた。そして、小高い築山の上に建てられた神殿は光り輝くような純白で、神秘的な佇まい。その大きさも相当なもので、二人はまだ見ていないが王都の中では王城に次ぐ大きさを誇る。「そっか……ここにお母さんがいたんだ……」エステルの母エドナは、幼少期に女神の加護を持っていることが分かり、幼い頃から聖女として神殿で暮らしていたという。エステルがその時の話を聞いてもはぐらかされて、詳しいことは何も知らないのだが……「……見ていくか?」 クレイは彼女の心情を察して提案した。「うん。お母さんがどんな場所で暮らしてたのか、見てみたい」「よしきた。ようやく観光らしくなってきたな」そうして二人は、他の参拝客らしき人々に混じって神殿に至る参道を進んでいく。築山の麓まで来ると、神殿の入口に至る長大な石段が伸びていた。「ここを登り降りしたら良い鍛錬になりそうだね」「……もっと他の感想はないのか。しかし、確かにこれを登るのはホネだなぁ……足腰弱い年寄は大変なんじゃないか?」石段は100段以上はあるだろうか?クレイの言う通り、ここを登るとなるとお年寄りにはかなりキツいだろう。「あ、大丈夫みたいだよ、ホラ!」そう言ってエステルが指さした先には……神官らしき人物が、老婆を背負って階段を登ろうとしているところだった。他にもそのような神官が手助けをするために待機している様子。「ほう、なるほど。流石は慈愛の女神様の神殿ってことか」「だね!じゃあ私達も登ろうか!!」「あぁ。……って子供じゃないんだから走るなよ!!」今にも駆け上っていきそうなエステルをクレイは嗜める。流石に彼らくらいの歳で、はしゃいで駆け回るのは恥ずかしすぎた。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「わぁ……すごいね!







